総領町
ラファティリティ 秋山智樹
広島県産の希少なナガノパープル
新しいことに挑戦し続ける若い力
「食べていただいた方から、美味しかったよ。また食べたい。という言葉をもらうと、とても励みになり、日頃の苦労が報われる瞬間でもあります」と笑顔を見せるのは、総領町のブドウ園「ラファティリティ」の園主・秋山智樹さん。会社名の「ラファティリティ」はフランス語で「豊かな土壌」を意味する。
農園は小高い丘に位置し、約50aの広さを持つブドウ園では、「ナガノパープル」と「シャインマスカット」の2品種を栽培。どちらも種なしで皮ごと食べられることが最大の特徴だ。「ナガノパープル」は「巨峰」と「リザマート」を掛け合わせた品種で、これまで長野県のみで栽培が可能だったが、2018年に全国での栽培が解禁された。 そのため、生産者が少なく希少品種とされており、さらに現在市場に出荷される「ナガノパープル」のほとんどが長野県産であるため、広島県産はかなり珍しいという。
その栽培方法も特徴的だ。できるだけ効率的かつ一定品質のブドウを育てるため、根の広がりを制限することで、天候に左右されにくく糖度が高い果実を安定的に生産できる「根域制限栽培」を採用。ポットで木を育てる「根域制限栽培」は、一般的な露地栽培で結実まで4~5年かかるのに対し、直径約1mのポットに根を収め成長を抑える代わりに、実に栄養を集中させることで2~3年での早期収穫が見込める。また、同農園では自動潅水装置も設置しており、ブドウ栽培の課題である水管理や肥料管理を徹底して行うことで、一粒一粒がおいしいブドウになるよう努力を惜しまない。特に「ナガノパープル」は皮が薄く、水分量によって劣化が進みやすいため、水の管理が重要になる。
「ナガノパープル」の魅力について秋山さんは、「『ピオーネ』など黒ブドウといわれる品種は皮をむいて食べるものが多いが、同じ黒ブドウでも『ナガノパープル』はそのまま食べられる」とし、皮ごと食べることで、皮に含まれるポリフェノールを余すことなく摂取することができるのだという。食べる人の健康とおいしいブドウを食卓に届けたいという思いが、「ナガノパープル」という品種を選んだ理由だと笑顔をみせる。
秋山さんは2014年に庄原市へUターンで戻り、それから2021年に妻の舞さんが社長となり、農業法人「ラファティリティ」を立ち上げた。秋山さん自身も福山市で保険会社の営業職として働いていたが2022年に退職。その後、金融コンサルタントとして独立したことで、ブドウ栽培に専念しやすい環境が整った。もともと、総領町の実家で祖父が趣味でブドウを育てており、知り合いに譲ったり自宅用として食べていた。父親も農業を営み少量多品目を栽培していたが、ブドウ栽培の一本に絞りそれと同時に起業した。幼い頃は畑仕事を手伝っていたが農業はまったくの初心者。仕事の合間を見つけて農業の専門書や動画サイトを参考に、家族のサポートも受けながらほぼ独学で就農に向けた準備を進めてきた。しかし、農業経験の乏しさなどを理由に金融機関の融資は受けられず、自己資金を切り崩しながらブドウ栽培をスタートした。
現在は道の駅たかのや直販サイトなどに販路を拡大し、収穫量も前年を大きく超えている。「新規就農の道は甘くなかった。今も従業員の仲間たちと試行錯誤の毎日」と当時を振り返る。固定観念にとらわれず、新しいことに挑戦し続けたいーと語る秋山さんの表情は充実感と挑戦者としての強い意志に満ちていた。