口和町
日野ミートファーム 日野光総
5軒の農家で立ち上げた「もみじ豚」ブランド
安心・安全でおいしい豚肉を家庭に届けたい
広島県産と表示された「もみじ豚」という名の豚肉を、お肉売り場や飲食店のメニューなどで目にしたことはないだろうか。長年親しまれてきたこのもみじ豚は、もともと広島食肉市場肉豚出荷組合「もみじ会」に所属する農場が丹精込めて生産した豚肉のブランド名。昭和50年代から続く通称だが、豚の飼料に「あるもの」を加えることになったのを機に、ブランド力を強化すべく名前を変更し商標を登録、「瀬戸もみじ」という名を冠して再スタートを切った。
瀬戸もみじの生産農家である日野ミートファームは50年続く養豚農家。代表の日野光総さんご夫妻とそのご両親による家族経営で、繁殖から肥育まで一貫して手がけている。光総さんが大学卒業後しばらくして、創業者である父親から受け継ぐ形で法人化して今に至る。
子どもの頃から豚を育てる両親の姿を見て育ち、学校から帰ると農場で遊んでいたという光総さんだが、手伝いはしていたものの、あまり後を継ぐことを意識していなかったという。庄原実業高等学校では寮生活を送り、北海道で実習を受けたのをきっかけに北海道の大学に進学。卒業後は生まれ育った広島に帰りたいという希望でUターンし、最終的に自然な形で家業に入った。「サンフレッチェのスタッフになりたかったんですけどね」とご本人が言うように、大のサンフレッチェファンでもある。
さて、冒頭に登場した、飼料に加える「あるもの」だが、その正体は「広島県産牡蠣の殻」。広島県は牡蠣の養殖生産量全国一で、多くはむき身で出荷されるため、牡蠣殻がたくさん手に入る。それらを粉末にして、豚の体重が増え筋肉が発達する120日齢ごろから出荷まで、飼料に混ぜて与えるのだ。良質なミネラルやアミノ酸が豊富に含まれる牡蠣殻を摂取することで、健康な豚が育つ。こうして豚の栄養状態を管理しながら、味や赤身と脂身とのバランスなど理想の食味を実現するために、植物性の飼料などで調整しながら仕上げ、出荷に至る。
瀬戸もみじは豚肉特有のクセがあまり気にならず、脂質が多すぎないので食べやすいのが特徴。それでいて、本来の旨みがしっかりと感じられる。飼料にもこだわり、食味だけでなく豚の健康を大切に考えられたお肉だ。光総さんいわく「高級志向ではなく、ご家庭で、安心・安全なおいしい豚肉を楽しんでいただきたいという思いで育てています」。
瀬戸もみじを商標登録した当時は5軒の農家がもみじ会に所属しており、広島県産の豚肉の価値を高めようと生産に励んでいた。瀬戸もみじのロゴマークには、牡蠣を育む瀬戸内海をイメージさせる波線が5本描かれているが、そこにはこれら「5軒」の意味も込められている。しかしそのうち3軒は農場を閉め、現在は日野ミートファームを含む2軒に。後継者不足や家畜伝染病に対するリスク管理、近年の飼料価格高騰、需要と供給、価格のバランスなど、特に小規模な農家の場合は影響や負担が大きく、経営がなり立たなくなってしまう要因はさまざまだ。
日野さんも「昔から『口が付いとるもん』つまり生きものを育てるのは大変とよくいわれますが、その通り、休みはないし、私も子どもの頃から泊まりがけの家族旅行には行ったことがありません」と苦労を認める。「では、なぜしんどい思いをしてまで続けるのかというと、自分たちの努力次第でついてくる結果も変化も感じ取りやすい。つまりはやりがいの感じられる仕事。おいしさや安心・安全という価値も、健全な経営があってこそ。だから経営成績をとてもシビアに追求します。この方針は父親の代から続いていて、あの時代、家族経営の規模にしてはパソコンをいち早く取り入れて、厳しい管理をしていた方ではないでしょうか」。
豚の飼育環境を整え健康状態を管理することは、順調な出産と生育につながる。「子豚はやっぱりかわいいもんですよ」と温かな笑みを浮かべつつ、生産効率をいかに上げていくか、難しくも不可欠な挑戦が続いている。