東城町
藤本農園 藤本 聡
愛らしい命の力を借りて、安心な米をつくる
一粒万笑の「アイガモ農法米」
藤本農園は30年前、現代表の藤本聡さんの父、藤本勲さんからスタートした。聡さんの祖父(勲さんの父)清さんは全国的に有名な木こりだったが、1964(昭和39)年に始まった木材輸入の全面自由化によって安価な外国産材が市場に出回るようになり、国産材の需要が減少。これからは林業の時代ではないと考えた清さんは勲さんに農業を勧め、当時、東京で働いていた勲さんはふるさとの東城町に戻った。
最初は2反の田んぼから、人と人とのつながりの中で信頼を積み重ねて徐々に規模は拡大し、現在藤本農園が手がける圃場の面積は47ha。広島県内でも指折りの規模に成長を遂げている。
藤本農園には毎春、小さな新入社員たちが大勢仲間入りする。安心・安全な米作りを支える立役者、アイガモ艦隊である。このアイガモ農法を始めたきっかけは「農薬を使わず作ったお米が食べたい」というお客さんの声。
藤本農園が長年取り組んでいるアイガモ農法は、その名の通り、田んぼに放鳥したアイガモによるさまざまな働きを活用した栽培方法。雑草を食べることによる除草効果、害虫を食べることによる害虫駆除効果が得られるため、殺虫剤や除草剤などの農薬に頼らずにすむのが代表的なメリットだが、ほかにも、泳ぎながら田をかき回すので土に酸素が回り、稲の生長を促すなどの効果があったり、排泄する糞尿が有機肥料として作用したりとさまざまな恩恵を受けられる。
アイガモ農法米は農薬・化学肥料一切不使用だが、藤本農園ではもう一つ、農薬・化学肥料を慣行の半分以下に抑えた特別栽培も実施しており、県の「安心!広島ブランド」の認証を受けている。
藤本農園が米を育てている東城町は県内一の米どころ庄原市にあり、米を通じて食の安心・安全を守るべく、市やJAが地域の農家と連携して農薬の適正使用や栽培技術と品質の向上に力を入れているが、藤本農園でも所有するいくつかの圃場を開放して最新技術や最新の農薬の試験に協力し、地域に合った資材や安全性の検証などに取り組んでいる。
そういった努力が実って、2011(平成23)年に「大阪府民のいっちゃんうまい米コンテスト」で藤本農園の米が初代最優秀賞「いっちゃんうまい賞」を受賞。翌年にも同じく庄原市の農家が受賞したことで、庄原市の米はおいしいんだ! という手応えを得て、庄原の米を全国に届けようと「庄原市ブランド米推進協議会」を立ち上げ、販促活動や消費者との交流、販路拡大などに取り組み、庄原米の全国発信に努めている。
藤本農園では一度目の受賞後、受賞できた要因を検証し続けた結果、第5回で準優勝として再び受賞を果たした。おいしい米作りに大切な要素は一つではないが、藤本農園が出した答えの一つは「土づくり」だった。
藤本農園は和牛の飼育農家でもあるのだが、自家製の牛糞堆肥ともみ殻くん炭堆肥を混ぜ合わせ土壌の成分分析に基づいて管理された土づくりにこだわっている。
稲を収穫した際に大量に出るもみ殻を低温で長時間じっくりといぶして炭化させたもみ殻くん炭は、炭化したもみ殻にできる気泡に微生物が住み着き、土壌にまくと地表温度が上昇して土壌の菌が活発になるほか優れた効果を発揮する。大量のもみ殻も牛糞も全て自家製もしくは地域で手に入るものを有効活用できるため、地域循環型の土づくりがかなうというわけだ。
藤本農園では春と秋に消費者との交流会を開き、米が育つ環境を見て、米について知り、田んぼに入って田植えや稲刈りをしたり米を食べたりといった体験を通じて米作りや米そのものに関心を持ってもらうための機会を提供している。この取り組みは勲さんのアイデアで始まって、聡さんが小学生のころから続いており、自分たちが作ったお米を食べて喜ぶ参加者の笑顔を見て、聡さんは子どもながらに父親が志す農業の素晴らしさを肌で感じていたという。
いつ誰が訪れても、自信を持って見てもらえる農場、東城の風土に育まれた米と、東城の風景を創り出している田園の素晴らしさに触れられる農場。それが藤本農園が目指す姿だ。
《掲載している文・写真は、つくる人と食べる人をつなぐWebメディア『ひろしま食物語』から抜粋しています。》