高野町
御津女神社ビール 小西 匠
ビールだって、庄原産
地域のために働くことを選んだことで
生まれた地ビール
「御津女神社ビール」は、庄原発のクラフトビールです。「御津女」は「みづめ」と読みます。名付けの親は、この庄原でビールの原料である「ホップ」を栽培し、「御津女神社ビール」を販売しているコニシ工業の三代目社長の小西さん。
名前の由来は高野町にある「御津女神社」から。「御津女」は900年前に記された備後の「風土記」に登場する人の名前です。当時、疫病の流行や災害が重なり、もうこの村がなくなるんじゃないかという危機的状況に陥ったとき、私財を投げうって村を救った人物だそう。そのおかげで助かった人々が御津女さんを祀ったのがこの神社。
小西さんは過疎化が深刻化し、地域がどんどん元気をなくしつつある状況を見て、将来を心配し、この地域を次の世代に繋ぐために何かできることはないか、そう考えてホップの生産にたどり着きました。このビールが御津女さんのように地域を元気にできたらいいな、そんな風に願っています。
ラベルも「御津女神社Beer」と描かれたドストライクなデザインです。外国のビール風なかっこいいデザインのクラフトビールが多い中、逆に目立ってますね!これが外国の人には大好評なのだそうです。
予約制で御津女神社ビールと共に、ちょっとした食事も楽しめる小さなバーを始めました。ご夫婦でアヒージョやそば粉のガレットなどを用意します。
どうして、地域振興にそんなに熱くなれるのですか?と尋ねると「もう17年前かな、ガンで胃を全摘してね」と小西さん。その闘病は壮絶で、死を覚悟する毎日だったそう。覚悟を決めると、お金をもうけるということが如何に無駄なことだったか気付いたと言います。
これまで庄原のほとんどの屋根瓦の修繕など工事を手がけてきた小西さんですが、この地域を元気にして次世代の子ども達に明るい未来を託すことの方がずっと価値があると考えました。
農産物が豊富な高野町だからこそ、やはり農産物を作って地域振興に携わることができないかなと考えます。そして全国で似たような気候の土地でどんなものを栽培しているか、色々調べていくうちにホップに出合ったのです。せっかく新たに作るのだから、肥料も農薬も使わない自然栽培をしてみることにしたそうです。
ホップはツル性の植物で、約6mにもなる高い棚を作って育てます。「この黄色いところが香りのもと」と言って、摘んだホップを見せてくださいました。何とも言えない爽やかな香り。ビールから感じるホップ香とはちょっと違う、フレッシュな匂いがしました。
収穫後はすぐに低温乾燥にかけ、真空で保存します。それを小西さんのレシピと共に工房に送って、ドイツ産のオーガニックの麦と合わせてビールにしてもらいます。
フレッシュなホップの香りを嗅いだあと、「御津女神社ビール」を飲んでみると味わいがグレードアップしたように感じます。
「美味しいって思うかどうかは、人によるけれどね、ホンモノを少し味わってもらえたら」と言う小西さん。
もしかしたらホップでなくても、クラフトビールでなくて良かったのかもしれません。環境に配慮する、身体に良いものを作る、地域のために働く、新しいことにチャレンジする、一所懸命になる、そんな若者をこの地域に育てたい。そんな思いを形にしたら、たまたまホップとビールができたのです。