口和町
ふくふく牧場 福元紀生
自然と牛と人間が共存する牧場の
世界でいちばん、安心が感じられる幸福チーズ
「牛と共存する生き方」もあるんじゃないか…そう考えて、本当に牛と共存する人生を歩み始めたのが「ふくふく牧場」の福元紀生さん。福元さんは庄原市口和町の山で、ジャージー牛を完全放牧し、その牛のお乳でチーズを作っています。牛はわずか5頭だけ。そのうち、搾乳できる(お乳が出る)牛はたった3頭です。3頭から取れるお乳の量は、少ないときは8リットル程度。一般的な乳牛(ホルスタイン種)だと、1頭だけで20~30リットル取れるそうなので、かなり少ないといえます。チーズ作りにおいては量が少ない方が難しいこともあります。攪拌がうまくできなかったり、発酵時間がかかってしまったり。それでも牛を育て、乳を搾り、わずかな量でもチーズを作り続けるその原動力は一体、どこからくるのでしょう?
福元さんの酪農の原点はあるとき目にした「モンゴルの草原」の映像。画面の向こうに広がる大自然の風景に「癒されるな~」と思ったそうです。そこに出てきたテロップ『家畜と人間は何千年も前から共存してきました』に目が留まりました。
牛は本来、人間が食料にしない草を食べて生きられる動物です。牛は人間には不要の草を食べることで、牛乳やチーズといった人間に必要な食べ物を作り出してくれる生き物なのだ!これに気付いた福元さんは、自然と生き物と人間とが共存する世界で生きたいと考えるようになりました。
酪農家になろうと決めていざ牧場で働き始めると、思い描いていた酪農とはかけ離れたものでした。大草原で草を食べ、のびのびと育っていると思っていた牛たちは牛舎につながれたまま。牧草を食べるどころか穀物の入った輸入飼料を与えられていたのです。それは考え方によってはごく当たり前のこと。家畜は人間が食べていくために存在しているのだから。でも福元さんの目指す「共存」ではなかった…。もちろんお乳から牛乳やチーズを作ったら、それを売って生活をしていかなければなりません。酪農家はペットとして牛を飼うわけではないのですから。
そして福元さんは考えました。「食べ物を作るからには食べてくれる人との距離が近いことが必要なんじゃないか」「作る人と食べる人とが交流の場をもち、牛と人間とが良い関係性を築けるようにしたい」と。
東京都八王子でまさにこれを実現している牧場がありました。それまでも同じ広島県内の牧場でお世話になったり、北海道でチーズ作りを教わったりしました。一時は福島県で山を借りて放牧を始めたりと、色んな経験を積んできました。同じ酪農家と家族の支えがあって、そしてこの「ふくふく牧場」が誕生したのです。
「ふくふく牧場」の牛の品種は全てジャージー種。「本当は『ブラウンスイス』の方が甘みのある乳が出るし、チーズにしても美味しいって言われているんです。でも僕は太陽が降り注ぐ大地に生える草を食べて牛が育ち、お乳ができる…。これを実現したかった。放牧牛には足腰がしっかりしていて、自分でエサを見つけて生きることができるたくましさが必要なんです」と福元さん。
「美味しさも大事。乳牛たるもの乳量も大事。でも自然の中で共に生きてくれることの方がもっと大事!これからも子どもたちに安心して食べさせられるチーズを作りたいし、作り続けたい」と語る福元さんの作ったチーズは強く主張しないシンプルさが特徴。そしてひと口食べるたびに幸せそうに山を歩く牛のあどけない顔が思い出せる味でした。