東城町
表果樹園 表良則
自ら手をかけるからこそ、学べる楽しさ
朝日に照らされ輝く果樹が力をくれる
「自分で作ってみたいっていう気持ちはずっとありました。だから定年退職した後、趣味のつもりで始めたんですよ」そう語るのは、東城町で梨と桃と葡萄を育てる表良則さん。表さんは広島県の職員として長年農林水産系の部門に所属して農業の技術指導を担い、定年前には当時の広島地域事務所の農林局長(今でいう広島県庁西部農林水産事務所の所長)の立場から広島県内の農業振興に努めていた。多様な専門部署がある中で、若い頃に果樹を担当したのを機に、落葉果樹に興味を持つようになったのだという。「私が子どもの頃は果物が贅沢品で、病気した時くらいしか食べられんかったけえ、食べたい食べたいと思っていました。自分で栽培したら好きなだけ食べられますからね」と笑う。
2007(平成19)年に長きにわたる県庁での勤めを終えると、生まれ育った東城町にUターン。念願の果樹園を開いた。「いろいろな果樹の技術指導をしてきたけど、この品種はこんなふうに果実がなるんだと、それぞれの生長する姿を見てみたかった。梨はものすごくたくさんの品種があるけど、私は梨といえば20世紀という時代に育ったので、やっぱり20世紀は好きじゃねぇ」。そんな表さんの果樹園には22品種63本の梨、そして桃と葡萄が育っている。
表さんの梨は産直市や道の駅などで販売されているが、購入して食べた人から「おいしかったから送ってほしい」と直接注文が入ることもしばしば。「有り難いことに、うちの梨をうまいと喜んで食べてくれる方がいるんですよね。おいしいということは、結局は甘いということなんじゃろうなぁ。糖度が高くて、酸味とのバランスが良いというか」。甘さを引き出すにはどうすればいいか、さらにおいしさを求めて研究中だという。「技術的にはまだまだだと思っていますが、やはり土が基本。春先に十分な有機物を取り入れられるように、肥料を惜しみなく投入します。そうすることで、木が長く元気でいられますから」。
さらに、一つ一つをしっかり大きく実らせるには、早い時期に摘果するのがポイントだという。いつまでもたくさんの実がなっていると、十分に栄養がいきわたらず、木も弱ってしまう。ならす実を厳選することで元気に大きく育つのだ。「理屈じゃ分かっちゃおるが、自分でやってみると実感できますよね。特に今年はそれがよく理解できた気がします。同じ品種でも早く摘果した木の方が大きくなりましたから」と言うように、自分でやってみてあらためて学ぶことも多いそうだ。
表さんは庄原市帝釈峡自治振興区の会長を務めるなど、自分の果樹園以外でやるべきことも多く、日中はほとんど農作業に手が取れない。日中は外で務めを果たして夕方戻って畑仕事。収穫時期は、夕方から収穫したものを夜10時頃に出荷センターに収め、12時過ぎに就寝、朝は6時頃起床という生活だ。
「梨は機械化できる工程がほとんどないから、ほぼ手作業なのが大変なところ。どこまで体がもつか分かりませんが」と苦笑いするが「手がかかる分、面白い。結局、楽しいからやっとるんですよね。苦もあるけど楽しさがあるから。一番は、木が生長する姿を見る楽しさですね。朝起きて畑に行くと清々しい気分になれるし、木々が元気そうに見えるんです。それを、元気でおるのぉ、良い色をしとるのぉと見るのが楽しみ」。果樹が生き生きすればするほど、力がみなぎる。朝日に包まれて、自ら育てた果樹と対話するひとときが、表さんの元気の源なのだ。