東城町
北村醸造場
どうしても訪れて買いたくなってしまう!
古くて温かくてカッコイイ蔵の酒
東城の町並みに溶け込んだ歴史ある蔵元。創業は江戸時代後期の天保年間(1830~1844)というから、およそ200年近く前。初めての方はガラス戸を開けるとき、かなり緊張するかもしれませんが、ひとたび中に入ると、あまりに気さくな蔵元ファミリーにホッとすることと思います。
一般的には軟水の酒で知られる広島県ですが、ここ東城町は石灰岩を含むカルスト台地の硬水です。北村醸造場のお酒は約10種のラインナップで、濃いめでまろやかな旨みがある味わい。いずれも飲みやすくて、一度知ると多くの方がリピーターになってしまいます。酒名の「菊文明」は明治の初期に誕生。それまでの銘柄「文明」に、皇室の紋章である「菊」を合わせたものです。
「試飲されますか?」と明るく声を掛けてくださったのは、杜氏夫人の北村裕子さんと数年前から酒造りを手伝い始めたという息子さん。
注目は「菊文明 合鴨純米原酒」です。令和2年の広島国税局清酒鑑評会純米酒部門で優秀賞を受賞しました。同じ東城町にある藤本農園のアイガモ農法で作った米を原料米にしています。この藤本農園は県内で最初にアイガモ農法を始めた、庄原を代表する米専門農家です。同農園では飯米しか作っていないため、原料米も飯米。
つまり酒造りに適していると言われる「酒造好適米」ではありません。品種は「中生新千本(なかてしんせんぼん)」。一応酒米にも使われる品種ですが、それでも100%飯米を使った酒造りというのは、非常に難しいそうです。
「もう、溶けすぎてね…、もろみがもろみにならんのよ。」と言うのは、社長で6代目蔵元杜氏の北村芳幸さん。水を少なめにして硬めの麹にするなど工夫を重ねた末、ここ数年はようやく味が安定してきたそうです。
早速、試飲をさせていただきました。「あぁ、なるほど。素直な味の酒ですね。米のうま味と言うんですかね。これは美味しいですね、 すごく好みです」「こちらは本醸造の原酒です。アルコール度数が19度ちょっとあります」「19度?そうかな?そんなに強くは感じないけど…あ、いや…後からガツンと来ますね!」「でしょう(笑) こういうのは氷を入れてロックで飲んでもらうのがいいですよ」
試飲するたびに飲み方はもちろん、酵母や精米歩合を変えたこと、微妙な香りの違いなど、ものすごく細かく解説をしてくださいます。ご本人は解説をしているつもりではないと思いますが、もう造りのすべてを把握されているんですよね。1つ1つの酒の味わいの違いはどこからくるのか、精米歩合を5%変えるだけでどうなったか、とにかく情報が深いので、この蔵の酒すべてに興味が湧いてきます。
聞けば現社長が蔵元杜氏になったのが約20年前。以来、奥様がムロに入って麹造りを担当することに。蔵人さんでもあったのですね。「まさか、私が酒造りをすることになろうとは…」と、当時を振り返って苦労話もたくさん聞かせてくださいました。それはそれは、幸せそうに。
家族で和気あいあいと、時には厳しい意見を交わしながらの酒造り。小さな蔵ならではの強みを存分に発揮して、根強いファンを増やし続けています。
なにぶん、「酒造り」だけを尖らせている蔵元で、ホームページもSNSも追いついていませんが、ガラス戸を開けると、そこは落ち着いて試飲ができる広間です。ぜひこの場所にも訪れてみてください。